森と匠の町で追い求める「広葉樹の可能性」。
日本屈指の森林面積を誇る岐阜県飛騨市。森林率はなんと94%というから驚きです。豊かな森林資源に恵まれたこの地は、古くから木工が盛んな地域として知られています。
日本の建築史を語る上では欠かせない「飛騨の匠」は、約1300年前の資料にその名を残す木工集団。その優れた技術を認められ、各地で腕を振るったという記録が残っています。現在もその技術は脈々と受け継がれ「飛騨家具」をはじめとした木工品は高い知名度と人気を誇っています。
緑豊かな森に囲まれた飛騨市には、古い町並みで知られる飛騨古川町があります。ここは白壁土蔵や石垣、格子戸の町家が並ぶ美しい城下町。当時の情緒をいまに残す町並みを一目見ようと、全国から多くの観光客が訪れています。
▲1000匹の鯉が泳ぐ瀬戸川沿いの小径は、飛騨古川の顔とも言えるスポット
▲家々の軒に見られる飛騨大工の意匠「雲」。大工ごとに模様が異なるのだそう
町の中心部は明治37年の大火でほぼ消失しましたが、その後、伝統的な建築様式を踏まえて家々が再建されました。現在でもその名残から、中心部には昔ながらの町屋が残っています。また、現在も新築の家には飛騨の匠の技が取り入れられていて、美しい古川の景観が今日まで守られてきたのです。
そんな飛騨古川町には全国でも珍しい広葉樹専門の製材所があります。主に飛騨産の広葉樹を扱う西野製材所です。この日は、社長の西野真徳さんに所内を案内してもらいました。
若いころは名古屋の製材所で修業していたという西野さんですが、先代社長の急逝にともない急遽会社を継ぐことに。右も左も分からないまま、叔父さんや近隣の製材所の人たちに教えを乞い、今日まで事業を継続・発展させてきました。
広葉樹専門になったきっかけを伺ったところ「実は飛騨の森の7割弱が広葉樹林なんですよ」と西野さん。当時、主要な木材であった針葉樹の価格が頭打ちになってきたこともあり、地元の森に豊かにある広葉樹を活かし、付加価値を高めて販売していく方向に舵を切ったのだそうです。
西野製材所の広大な敷地内には、ブナ、ナラ、サクラ、クリなど多種多様な広葉樹の木材が。針葉樹の樹種は500種なのに対し、広葉樹はなんと20万種もあるのだそうです。
「色も形もバラバラで扱いにくいけれど、とても個性的。そんな広葉樹に魅力を感じたんです」と西野さん。針葉樹材のように画一的に大量生産はできないけれど、それぞれの木の特徴を活かした木材で勝負したい、そんな思いから広葉樹専門の製材をスタートさせたそうです。
「広葉樹の製材は最初の一刀が大事」と西野さん。まっすぐな部分が少なく、木目も節もバラバラな広葉樹だからこそ、何に使うか、どう使うかを最初に想定しておくのが大切なのです。所内では、熟練の職人たちが木の個性を見極めながら製材していました。
山を活かし、循環させるための取り組み。
実は、飛騨の広葉樹の多くは「小径木」と呼ばれる細い木です。その多くは、機械で小さく切り刻まれチップになる木材として、安価で市外に売られてしまうのです。
西野さんは、飛騨市や地元企業らとともに、小径木の価値を高めるための取り組み「広葉樹のまちづくり」を行っています。チップではない新たな木材の活用法を生み出すため、伐採、製材、加工、製品作りなど各領域のプレイヤーが協働して様々な事業にチャレンジしています。
▲「FabCafe Hida」で提供しているお箸づくり体験。旅の思い出にもぴったり
古川町内にある古民家を改装した「FabCafe Hida」も、その取り組みで誕生した場所のひとつ。ここでは、レーザーカッターやUVプリンターなどの最先端機器を使用し、西野さんが製材した広葉樹材で木工体験をすることができます。カフェや宿泊も併設しているので、旅の合間に飛騨の木材に触れるのもいいですね。
▲道の駅内「飛騨産直市そやな」にも西野さんが製材した木材が使用されている
これらの事例の他にも、飛騨古川町では至る所で広葉樹の木材に触れることができます。「飛騨の森や木材のことをもっと消費者に知ってもらい、その価値を理解して欲しいですね」と西野さん。広葉樹の需要が増えることで得た利益を、森の整備や育成のために還元し持続可能性の高い仕組みを作って行きたい、と今後の展望を語ってくれました。
豊かな森、古くから受け継がれた木工技術。そして、全国から注目を集める先進的な取り組み。西野さんは、そんな林業の最先端地・飛騨で広葉樹の第一人者として活躍されています。
流通量が少なく希少な国産広葉樹材。複数の樹種を安定的に供給できる製材所は、
全国広しといえどそれほど多くありません。私たち大信製材は、個性的でオンリーワンな広葉樹材の可能性を、西野さんと共に追求していきたいと思います。
株式会社西野製材所
岐阜県飛騨市古川町高野367